やだんこ!

共通点があったりなかったりする者同士で更新するWeb同人誌です

リレー小説の話・にくにくしているわたくし

最近めっきり暑くなりましたね。こんな日はおうちをダンスフロアに改造して踊りたーい! クラブでやってろ! 改築費がかさむから! きのこです。


リレー小説、二作品が完結しました。いかがでしょうか?

わたしはだっくる作品の最後を担当したのですが、ひとりで4800字書いて話をまとめるという荒業に出ました。途中で、あっこれ調子乗って書きすぎてるなと思ったのですが(ひとり一更新あたり140字が目安でした)、人間、走り出したら止まらないものですね。((꜆꜄  ˙-˙ )꜆꜄꜆シュッシュッシュッシュッシュッシュッ


残り二作品も動いています。いつかは完結すると思うので気長に待ってくださいますと幸いです。


---


こんど結婚式があるので服を見繕っていたのですが、わたしは体重の増減が非常に激しいので、昔着ていたジャケットが着られなくなっていました。


ここ2年間で、35キロ太って、45キロ痩せて、50キロ太って、25キロ痩せました。

もうわたしも計算が追いつかないのですが、つまり、いまは結構太っている状態ということです。


ぽっちゃりというか肉団子というか肉まんというか球体というか、とにかくそういう感じにあります。

この間知り合いに会ったら打率よさそうだねと言われました。安打というよりホームランタイプのバッターで今後もやって行きます。


結婚式は来月なので、頑張って引き締めようと思います。と言いながらいまあまーいカフェラテを飲んでいます。おいしー(打率アップ)。

 


(きのこ)

リレー小説・紬 (完結)

滝の神様になって一年が経った。特にすることはない。早朝も真夜中も滝のそばにいるだけだ。たまに人や魚の形をかりて泳いだりもする。時間帯を間違えると、たまたま訪れた人間にぎょっとされることもある。だいたいいつも美少女の姿で、しかも裸で泳いでいるからだ。べつにそういう趣味ではない。裸の美少女の姿でいるのが、一番抵抗がないからだ。それには神様になる前の記憶が関係しているのかもしれないが、滝の神様はもう、神様になる前のことを思い出せなくなりつつある。

とは言え、美少女姿の滝の神様を見た者の中から、滝の神様に惚れてしまう男が出て来るのも無理なかった。

人生に疲れ果てて山に入ったはずの男は、じっと死を待つことも出来ず、あてもなく彷徨って偶然、滝の神様のいるこの場所に着いたのだ。

最初、遠くから見ていただけだったのが、いつしかこっそりと近づいていった。男に邪な気持ちはなかった。ただ、より近くで泳ぐ美少女の神性を感じたかった。それは今までの男の人生にはなかった感情だった。

滝の神様は自分の方へ近寄ってくる男のことを認識していた。男はいつからか物陰に隠れることも忘れて滝の神様に近づいていたのだ。

男がはっと気付いた時には水の中へ入っており、美少女が目の前にいた。美少女の肌は輝いているかのように白くうつくしかった。その輝きは人間のものではないように思われた。

思わず男が手を伸ばすと、美少女は消えてしまった。

まるで水に溶けていくような消え方だった。男はぼうぜんとしながらも心のどこかで納得していた。とても自分と同じ人とは思えなかったからだ。もしかしたら水の妖精なのかもしれない、なんてことも考えた。

それならば無理に追いかけてもしょうがない。おそらく向こうが気を許してくれない限り姿は見せてくれないだろう。

明日も来てみようか。また会えるだろうか。

「明日か……」

男は自嘲した。ついさっきまで、死のうと思っていたのに。そして、自分が以前ほど疲れていないことに気づいた。なんとなく、元の暮らしに戻ってやり直せる気がした。男は滝に向かって手を合わせると、山を下っていった。

 

こんなふうに滝の神様は存在するだけで、その神性を発揮して、時たま人を救っていた。ときに人にとどめを刺すこともあった。コミュニケーションを取らないことが滝の神様が自らに課したルールだったが、それによって拒絶されたと感じ、命を断つものもいたのだ。

だけどそれはしょうがない。神になってからわかったが、命は巡っていくものだから、死は悪いことでもなんでもないように思えた。むしろその個体にとって自ら命を断ちたくなるほど生きづらいならば、さっさと地球に返還されればいいのだ。そう、かつての自分のように。

まさか神になるとは思っていなかった。

とにかく毎日生きづらくて、そもそも生まれつき人生そのものに価値をあまり見いだせず、会社を辞め、友人とも疎遠になり、こないだやってきたあの男のように滝をぼおっと眺める日々が続いていた。かといって自ら死ぬような元気もなく、雨の降った翌日に滝を訪れ、うっかり足を滑らせただけだった。誰かに背中を押されたような気がしないでもないが、まあそれはいい。

 

毎日とても心穏やかに過ごせている。自然というものは心をよせて過ごしていれば変化に富んでいて、飽きることがない。その変化に驚くことはあっても、人間社会のように心が疲弊することがない。幸運な死だったように思う。

いつまでこの日々が続くのか、倦んでしまわないか、孤独にやられてしまわないか……かすかな不安が心によぎることがないわけではない。けれどそれは一瞬で滝に溶けていく。そのあとは、流れ落ちていく水の姿を見るだけで強烈な幸福感がやってくる。かぞえきれないほどの鳥の鳴き声や、四季に伴う植物のうつりかわり、森に住む動物たちの姿、途方もなくゆっくりと変化する苔や岩の様子に、刻一刻とかわる空。眺めるものは山のようにある。

このままでいいのだ。どうしようもなく飽きたら誰かの背中を押せばいい。なぜかはわからないが、そんな気がする。

(完)

リレー小説・だっくる(完結)

ぼくの嫁は「りるれの三姉妹」と呼ばれ、地元の上谷では知らないものがいないほどの有名人だった。長女りみ、次女るみ、そして三女がぼくの嫁、れみ。


三人は、円満な家庭環境の元、すくすくと育った。外で遊ぶことが好きな二人の姉に比べ、れみは家で図鑑を眺めることが好きなおとなしい性格だった。

作りのしっかりした、硬い紙の図鑑を触っているだけでれみの心は落ち着いた。
昆虫や植物に乗り物……家にない図鑑は学校の図書室で借りて帰る。ランドセルはいつもの2倍くらい重くなったが苦にはならなかった。

ある日、母親についていった本屋で『妖怪図鑑』なるものを見かけ、れみは心を奪われた。

妖怪図鑑に出てくる言葉はれみの語彙にはないものばかりだった。
ひょうすべ、ぬらりひょん、いったんもめん……不思議なひらがなの並びにれみは惹かれていった。

「あれ」

図鑑を繰っていたれみは思わず声をあげた。開いたページにはざしきわらしのイラストが描かれている。

「お姉ちゃんにそっくりだ」


その頃かられみは、奇妙なことに気づき始めた。


三姉妹の家庭は恵まれていた。この時世にさして需要があると思われない桶屋にしては、異様なほど。商売っ気のない呑気な父が乗り回しているのは大層なスポーツカーだった。


最も奇妙なのは、どれだけ探しても、るみだけ、赤ん坊の頃の写真が見つからないことだった。


「お姉ちゃんはざしきわらしなのかもしれない」

ざしきわらしは憑いた家は栄え、しかしその一方で、居なくなってしまうとその家は没落するとも図鑑には書かれていた。幼さゆえの無邪気さで、ほとんどるみがざしきわらしだと信じ込んだれみは、姉から片時も離れないことを決めたそうだ。

「それを切っ掛けにわたしは外で遊ぶようになって、いつのまにかテニスで県大会に出ていたのよ」

昔を懐かしむような口調とは裏腹に、いたずらな表情を浮かべながら、れみはぼくに教えてくれたのだった。

「この大嘘つきめ!」


ぼくがいつものノリでそう突っ込むと、れみはぽかんとしたあとににっこりと笑った。


「なにが嘘だとおもったの?」


「全部。まずテニスで県大会にでたなんて聞いたことないし」


「座敷わらしは?」


「大嘘だろ」

 

思わず鼻で笑ってしまう。座敷わらしはもちろん、妖怪なんて昔の人が考えたこじつけだ。

 

「ふーん、信じてくれないんだ」


いたずらっぽい表情を浮かべながらも、れみはほんの少しさみしそうな顔をした。そのとき僕はそれを、ちょっとしたつくり話にのってくれなかったことへの表情だと受け止めた。それ以上の深い意味なんてあるわけがないと思っていた。
でもれみはその翌日から姿を消してしまった。


れみは一週間経っても帰ってこなかった。何度も電話をかけたが、携帯の電源が入っていないという返事だけが帰ってきた。

 

誰かにれみの失踪を伝えなくてはいけないと思ったが、れみと僕の共通の友人はいなかったし、彼女の実家の連絡先を僕は控えていなかった。

 

警察に連絡するべきなのかもしれない、と考えはじめた頃、一本の電話がかかってきた。
りるれの三姉妹の長女、りみだった。

 

「もしもし」
「りみです」
「あ、お世話になっております」
「特に、お世話してません」
「すみません」
僕は謝った。慣用句的表現を使っただけでなぜ謝らなくてはならないのだろうか。

 

「れみがいなくなったと思うのですが」
りみがはっきりと言うので僕は驚いた。

 

「え」
「え、とは?」
「いや、なぜご存知なのかと」
「わかりますよ」
りみは呆れたように言う。
「上谷の家に悪いことが続いていますから」

「どういうことですか」
「悪いことが続いているのは、れみがいなくなったからです」

「え?」
「れみは何も言っていないのですか」
「何もって、何を?」

 

「れみは座敷わらしなのです」
りみははっきりと言った。

 

上谷は僕の家から電車で二時間ほどのところにある街だ。
電車に乗っていると、僕の住む街のビルでごちゃごちゃした様子から、だんだん建物が低くなっていって、まばらになり、あっという間にひらけたところに出る。畑と田んぼが延々と広がっているこの上谷でりるれの三姉妹は育った。

 

れみは大学進学を機に上谷を出たが、りみは実家に残り、るみは若くして他界してしまったと聞いている。

 

駅に迎えにきたのはりみだった。

 

「おはようございます」
僕の挨拶に、りみは、
「こんにちは」
と返した。

 

「すみません、わざわざ迎えに来ていただいて」
「車で行かないと、かなり距離がありますから」
「ありがとうございます」
「いえ」
りみは長い髪をなびかせて、さっさと歩いていく。

 

駐車スペースには真っ赤なスポーツカーが停まっていた。りみがそのスポーツカーに乗り込んだので、僕は助手席のドアを開けた。
「だめ」りみは言う。「後ろに乗って」
「はい」
僕はりみの言う通りにした。

 

「どうして知らなかったんですか?」
サングラスをかけて運転を始めるなり、りみは言った。
「座敷わらしのことですか」
「そうです」
「聞いていませんでした」
「そんなことってありますか? 夫婦でしょう?」
「いや、まあ……」
りみの言葉に僕はつい語尾を濁してしまう。

 

僕とれみはわりあいに仲のいい夫婦であるつもりだった。しかし二人の間には共有されていない事項がいくつもあったのだろう。
少なくともれみは自分が座敷わらしであることを僕に隠していた。

 

「れみは」僕は言う。「るみさんが座敷わらしだと話していました」

「それも本当」
りみはギアチェンジをしながら言う。今時珍しいマニュアル車だ。

 

「るみは座敷わらしで、上谷の家を栄えさせる仕事を終えて、いなくなった」
「いなくなった?」
「ものごとを円満に解決させていなくなったから、今回のれみの場合とは違うと思います」

「じゃあ、れみは」
「わかりません。もともと情緒不安定気味な子ではあるけれど、座敷わらしとしてのいろいろを投げ出したりするタイプではないはず」
りみは続けて言う。
「どこへ行ったのかさっぱり見当がつかない」

 

ひたすらに田んぼと畑の広がる道をしばらく走っていくと、ちょっとした住宅地に出て、大きな病院が見えてきた。りみはウィンカーを出して病院の駐車場へ入っていく。

 

「先に父さんの顔を見てから行きましょう」りみは言う。「家で転んで具合を悪くしたの」
「お怪我はないんですか」
「見た目ではわからないから今日検査をあれこれしているはず。なにしろ歳だから、骨の数本折れているかもしれない」

 

黙っている僕にりみは駐車券を取りながら言う。
「れみがいなくなったことでこういう不幸がやってきているんです。あなたもそうでしょう?」
「いや、特には」
「給料が急に下がったとか」
「べつに」
「怪我をしたとか」
「してないです」
「コンビニでお弁当を買ったら箸が入っていなかったとか」
「そんな小さいことですか。それもないです」
「ないの? おかしい……一番にあなたのところに被害が出るはずなのに」

 

りみは考え込みながら車を停め、すっと車から降りて病院の方へすたすた歩いて行ってしまった。僕は、首を傾げ考え事をしているりみを走って追いかけた。


エレベーターホールでやっと追いつき、閉まりかけていたエレベーターのドアをこじ開けて、僕はりみに病室がどこにあるかを聞き、階数ボタンを押した。りみはまだ考え込んでいる。

 

エレベーターが開いたとき、りみは「あ」と声を上げた。
「どうしました?」
僕の質問には答えずりみはすたすたと歩いていく。僕はまた小走りでりみを追いかけた。

 

義父の病室は廊下の一番奥にある個室だった。
「お、お久しぶり」
義父が手をあげる。薄い青の浴衣のような病院着を着ている以外は顔色も良く、元気そうに見えた。

「お久しぶりです」
「いや、ちょっと家の中で転んでしまってね」
「検査はどうだった?」
りみが聞く。
「どこも異常なし。打撲が少しあるくらいだった。念のため今日は泊まって、明日退院できるそうだ」
「よかった」
「死んだかと思ったよ、ひどく転んだから」
義父は笑う。りみが真剣な顔で頷いているところを見るとよっぽど危険な転び方をしたようだった。

 

「そうそう、れみがうちに来ているみたいだ」
義父の言葉に僕とりみは驚いた。
「会ってあげてくれるかな?」
僕の目をまっすぐ見ながら義父は言う。僕は、はい、と返事をしようと思うのだがなかなか言葉に出せず、もたもたしているうちに待ちきれない様子のりみが病室を出たので、僕は義父に頭を下げてりみの跡を追った。

 

りみは車に乗るとすぐにエンジンをかけた。僕はなんとか出発する前に車に乗り込むことができた。


住宅地を少し離れると見たことのある景色になってくる。病院からりるれの三姉妹の家まではそれほど遠くないようだった。

 

「そんなに」りみは苦々しげに言う。「そんなにれみが嫌い?」
「嫌いじゃないです」
僕は、嫌いじゃないという言葉は不適切だなと思い言い直した。
「好きです」

 

「でもれみの話を信じなかったんでしょ?」
「いや、れみは」
「るみが座敷わらしだという話だけをしたのよね、多分」
「そうです」僕は言う。「その話は僕は冗談だと思ったし、れみも自分が座敷わらしだとは言っていなかった」

 

「言えると思いますか?」
りみは敵を見るような目で僕の方を向く。
「あなた、自分が妖怪だったとして、そのことを人に言えるんですか?」
「妻になら、言うと思います」
「あなた、あなたって人は……。妖怪だったことがないからわからないのか、それとも人の気持ちがわからないのか、まったくもう」
呆れたようにりみは言う。

 

「座敷わらしと結婚しておいて、座敷わらしだって気がつかないなんて信じられません。しかもるみの話をヒントとして出していたのに」

 

「気がつきませんよ普通」
「普通って何?」
りみは言って、続ける。
「私たちの普通はれみが座敷わらしであること。座敷わらしの存在を否定するなんて、普通、ありえないと思います」
僕は黙るしかなかった。

 

りるれの三姉妹の家は大きな屋敷だ。いつ訪れても驚かされる。昔ながらの縁側や土間のある、漫画にもなかなか出てこないような古風な作りで、よく手入れのされている家である。

 

玄関前にれみが立っていた。

 

りみは車を止めるとれみの元へ駆け寄り、れみの頬を引っ叩いた。そして強く抱きしめた。

 

僕は車から降りて立ち尽くしていた。

 

れみはかなり痩せたようだった。もともとややぽっちゃりとした体型だったれみの頬がすこしこけてシャープなラインになっているのを見て、僕は泣きそうになった。

 

りみとれみはあれこれ話をして家の中に入っていった。僕は戸が閉められてもしばらく動くことができなかった。

 

ようやく家の中に入ると、りみが台所から麦茶を運んでくるところと出くわした。りみは僕を睨みつけて居間の戸を開けた。僕も居間に入った。れみが姉から麦茶を受け取るところだった。


僕はれみの向かいに座った。僕の分の麦茶は出てこなかった。

「れみ」
僕はれみに呼びかける。れみはこちらを向いて照れくさそうに笑った。
「なに?」
「どこに行ってたの」
僕が聞くと、
「あなたたちの家の天井裏に隠れていたんだって」
と、りみが答えた。

 

「天井裏に?」
れみは頷く。鎖骨がはっきりと浮き出て見える。ずいぶん憔悴している様子であることに僕は責任を感じた。
「この大嘘つきめ! だって?」
りみは口の片方だけをあげて嫌な笑い方をする。
「ひどすぎる」
「いや、あれは冗談で」
僕が弁解しようとするとれみが、
「そう、私たちの間で流行っている冗談だったの」
と言った。
「でも悲しくなったの」
とれみは続けた。

 

「ごめん」
僕は言う。れみは頷く。
「そりゃそんなに近くにいるんだから不幸ごとも起きるわけないわよね」りみは言う。「父さんが転んだのは、たぶん、れみの悲しみの気に当てられたんだと思う」
「ごめんなさい」
「れみが謝ることじゃない」
りみはれみの頭を撫でる。僕はそれを何もできずに見ている。

 

「離婚、する?」
僕は恐る恐る言った。
「え?」
れみがぽかんと口を開けてこっちを見る。
「いや、なんか、申し訳なくて」

 

「この馬鹿!」
りみが座卓の上に飛び乗って、僕をばしばしと叩き始めた。
「お姉ちゃん、やめて」
「全然わかってない! れみのこと理解する気がないのをそうやってごまかして! 馬鹿! 馬鹿やろう! あほ! まぬけ! うんこ! うんこたれ!」
「お姉ちゃん、うんこはやめて」
「うんこ! うんこ!」
「お姉ちゃん、あんまり汚い言葉知らないからって、最上級の罵りがうんこなのおかしいよ、はは、ははは」
れみが笑いだしたのでりみは僕に暴力を振るうのをやめた。

 

れみは、はー面白くてお腹痛い、と言いながら笑ってうつむいた。僕は、動こうとしたりみを制して、座卓の上に飛び乗り、れみの肩を掴む。
れみは笑いながら泣いていた。

 

「れみ」僕は言う。「ごめん」
「うん」
「本当にごめん」
「うん、うん」
「座敷わらしでもいいから」
と言ってから、僕は言い直す。
「座敷わらしのれみがいいから」

 

れみはぽろぽろ涙をこぼしながら僕にしがみついてくる。僕はれみを抱きとめた。
僕もつられて泣けてきてしまって、二人でわんわん泣いた。

 

どれだけ泣いたのかわからない。やっと涙が落ち着いてきた頃に、りみが居間に入ってきた。僕とれみは泣いていたから、りみがいつ部屋から出ていったのか全く気がつかなかった。
「これ」
りみは分厚い封筒を差し出す。れみが受け取って、中身も見ずに、
「こんな大金もらえないよ」
と言った。
「結婚式やってないでしょ。花嫁姿を私たちに見せてほしいの」
「お姉ちゃん」

 

「あ、このお金は私一人からじゃなくて、お父さんとお母さんとるみと私からだからね」
「亡くなったお母さんから?」
僕は聞き返した。
「ちょっと、お母さんを勝手に殺さないでよ」
れみは笑った。
僕はてっきり、三姉妹の母親は姿を見せたことがなく、みな母親について話すときは言葉を濁していたから、母親は亡くなったものだとばかり思っていた。


「お母様は、どちらに」
僕は言う。りみは笑って上を指差した。僕は天井を見る。途端にどたばたと天井裏から足音が聞こえてきた。
「え? 天井裏に?」
「れみは、お母さんの真似をしたのよね」
りみにそう言われて、れみは恥ずかしそうに笑った。


僕はれみをずっと守っていこうと思った。

 

(完)

 

わたしたちなりのリレー小説の終わらせ方

1週間でリレー小説終わるの無理でした! 続けるのは結構余裕でしたが、〆るのがむずい!

 

つーわけで、急遽ルールを変更しました。

 

担当の日替わり制をやめます。担当者は今週中にそれぞれの続きを書き、物語を完結させます。

今週中であれば、いつ終わらせるかは担当者次第です。今日の更新で終わるかもしれないし、日曜日に終わるかもしれない。

で、それだと続くかどうか分からなくて読者に不親切なので、最後には(完)とつけます。

 

以上です。せっかくいっぱいの人に見てもらったので、頑張ります!頑張るだけなら誰でもできますよ?うるせえ!よろ!

 

リレー小説・きのこ

大きな蟹が山からやってきた。こんにちは、と挨拶をすると、こんにちは、と蟹も返した。なんのご用事ですか、と聞いたのは今年で30歳になるのに学ランを着ている涼平くんだった。この街を殲滅します、と蟹は答えた。それはちょっと勘弁して下さい、と言った涼平くんは一瞬で燃え尽きた。蟹光線だった。

 

涼平くんは、ファッションセンスにこそ問題があったけど、いい奴だった。とはいえ、感傷が心の中に渦巻く、ということもなかった。茫然としてしまって、蟹が、これから忙しくなるので、と言って去るまで立ち尽くしていた。なので、蟹博士と呼ばれるタキ爺のことを思い出したのも、しばらく後だった。

 

遠からず蟹が厄災を運んでくる、とタキ爺はことあるごとに語った。街では、蟹が貴重な資源や労働力だった。だから、なんて不吉なことを言うのだ、と人々から疎まれてしまうのも自然ななりゆきだった。蟹の研究に一生を費やしたのに研究所を追われたタキ爺のことは、街の外れの川辺ですぐ見つかった。

 

見つけたのも蟹だった。

川辺で石を運んでいた蟹たちが、生い茂る草の中に倒れているタキ爺を見つけた。とてつもなく臭く、ぼろぼろではあるが、どうやら生きているようだった。

涼平くんは蟹がタキ爺を見つけ、なにやら話し合い、数十匹がかりで運び出すのをぼんやりと見ていた。そして、街は順調に殲滅されつつあった。

あれ、俺、生きてるの?

そう思って自分の身体を見下ろした。

 

涼平くんの体はぷすぷすの燃えかすとなっていた。魂だけが残ったのだった。燃えかすのそばでは学ラン仲間の高橋くんがことの成り行きを見守っていた。高橋くんの学ランは紺色だった。高橋くんは涼平くんの黒い学ランをダサいと思っていた。

蟹たちは死にかけのタキ爺に人蟹呼吸を施し、蟹に改造するに違いなかった。

僕が動かねばなるまい、と高橋くんは思った。頑張れ高橋くん、と涼平くんは思った。しかし、この街はもうダメだろう。蟹が次々に建物を破壊していく様を見て、高橋くんは冷静に判断し、それから、栃木に行くことにした。蟹には猿だ。

 

蟹によって街の近くの交通網は麻痺していたが、たまたま乗り捨てられていた自転車を拝借して、1時間ほど漕いだ先はまだ被害が出ておらず、そこから電車に乗って栃木県は日光市に向かった。封印を解かねばなるまい。電車内で最後になるかもしれない駅弁を食べながら、高橋くんは思った。そう、見猿、言わ猿、聞か猿を解き放つつもりだったのだ。

 

高橋くんが日光の駅に着くと、タキ爺によく似た老人が出迎えた。老人は自らをマス爺と名乗り、タキ爺の双子の兄弟であると言った。

 

「タキ爺に兄弟がいたなんて」

「誰しも思いもよらない繋がりがあるんです」

「それよりなぜぼくを?」

「目覚めさせるおつもりでしょうから」

 

タキ爺は全てを分かっているように、駅前に止めていた車に高橋くんを招いた。日光駅に似つかわしくない高級車のドアがスムーズに開くと、そこにはひんやりとした空間があった。

 

「話は移動中にしましょう、さあ乗って」

 

車内でマス爺は語った。蟹のこと、タキ爺のこと、そして封印されし猿のことを。

 

一体どれだけスピードを出したのか、車はすぐに東照宮の前に着いた。マス爺は先に降りて、高橋くんを振り返ったが、ぐっ、と苦しそうな声を出して膝から崩れ落ちた。精液のような臭いが辺りに漂う。どうやら蟹の手先が先回りしていたようだ。鉄砲玉の栗が現れたのだ。

 

「なるほどね……もう臼と蜂と牛の糞も来てるのかな?」

 

高橋くんが尋ねても栗は黙ったままだった。どうやら隙を伺っているようだ。こんなところで時間を取られている場合ではない。高橋くんは足音も立てずに、栗との距離を詰める。

 

疾い! 栗が思ったその瞬間には高橋くんの輝く左手が、彼を貫いていた。

「悪いけど急いでいるんだ。マス爺も病院に連れていきたいし」

高橋くんは、返事を永久にしなくなった栗に向けて呟くと、背筋にゾクゾクとした感覚に気づいた。いつのまにか、臼と蜂の大群と大量の牛の糞に囲まれていた。

 

牛の糞特有のメタンガスを含んだ臭気が鼻をつく。

「これはあまり使いたくなかったんだけど……」

高橋くんの背後の空間がねじれる。それまで誰もいなかった空間に、ぼんやりと人にしてはあまりに細い、「何か」が浮かぶ。

「3対1。しかも相手は素人じゃないんだからいいよね!」

「何か」が高橋くんをかばうように前に出て、構える。蜂のぶーんという羽の音に重なるようになにかの振動音が聞こえ出した。

しばしのにらみ合いの後、蜂の大群が高橋くんに襲いかかってきた。それを「何か」が目にも留まらぬスピードで、叩き落としていく。先程と打って変わって高橋くんはポケットに両手を突っ込んで、その様子を眺めている。

黒い影のようだった蜂の大群は、次第に小さくなっていき、いつのまにか蜂の羽音は聞こえなくなっていた。高橋くんの「何か」が発する振動音だけが聞こえていた。

「漫画だったらここで決め台詞を言いたいところだけど……」

蜂の大群が完全に消滅したことを気にも留めず、臼と大量の牛の糞が、同時に高橋くんに飛びかかる。

 

高橋くんの声で、マス爺は目を覚ました。

「お、よかった。傷は意外に浅かったよ」

目を上げれば、汚れた学ランの高橋くんが笑っていた。

「ぼくは先に行くよ、マス爺は車の中で休むといい」

「しかし、わたしも……」

「思ったよりも敵が手強い。マス爺を守りながら戦うのは難しいんだ」

マス爺は自分の無力さを呪った。しかし、高橋くんの言ったことは事実だ。

「三猿が居れば、街を蟹から守れる。一刻も早く封印を解かなきゃ」

マス爺にも自分にも言い聞かせるように、静かに高橋くんは言って、見猿、言わ猿、聞か猿のある場所にかけていった。

 

「そっちに行っちゃダメだ!」

涼平くんは、自分の叫び声で目を覚ました。夢……? それにしては生々しく、死んだという感覚も妙な説得力があった。

 

涼平くんはカーテンを開けた。空には黒く分厚い雲が広がっていた。仕事のやりすぎだろうか。もう3年もこんなことを続けている。枕元にあるタバコをとって、火をつけた。

 

電話が鳴る。煙を燻らせながら、画面を見ると高橋くんの彼女の吉岡さんからだった。蟹が街を襲ったあの事件で高橋くんが死んで、結局人類は蟹に屈することになった。

 

その日からじゃんけんは三竦みではなくなった。チョキを出せば勝ち。大きなハサミは岩をも砕く。世界のバランスは完全に崩れていた。

 

電話に出る。

 

リレー小説・無限大

生きるとは、意味の連続性だ。例え単に無意味であったとしても、それを無意味だと知覚した瞬間からそれはやはり無意味という意味を持つ。だから、考えることは人生を豊かにするという言葉は一分の隙もない真理だ。無意味な人生を知覚することが人生に無意味という意味を与えるのだから。これが、前提だ。

と、パフェを見ながら考えた。パフェはグラスが透明だから、どのような中身かがすぐ見える。僕はパフェに長いスプーンを差し込んでかき回す。これは無意味だけれど、無意味という意味を持つ行為だ。

「食べ方が汚い」

都に言われて僕は謝る。僕の名前は県だ。都にはとても頭が上がらない。

そのうえ都はかわいい。

飛び抜けた美貌ではなく、男好きするタイプの愛嬌のあるかわいさだ。白いもち肌、肩より少し長いつやっとした黒髪、小動物みたいなくりっとした瞳、ほどよく甘い声。

 

ただ、それに反比例するかのように性格はひねくれていた。長い付き合いなのできつい言動にはもう慣れたが、背中に「呪殺」と白字で書かれた黒いパーカーを着てきたときはさすがにびっくりした。意味、無意味でいうとこれ以上、「意味」のある言葉もないだろう。呪うとは、相手をこれ以上ないほど考えることと同義だし、殺すというのは意味の連続性を断つということに他ならない。

 

そんなことを都に伝えればまた散々に罵られかねない。学生の頃、たまたまお互いの名前を話題に言葉を交わしたことをきっかけとしたこの関係は、側から見れば微笑ましい腐れ縁かもしれないが、僕から言わせれば違う。

 

僕は都に復讐がしたいのだ。


都は二杯目のコーヒーを飲んでいる。僕はぐちゃぐちゃになったパフェをぐるぐるとかき回している。

「都」

「なに」

「結婚しよう」

「いいよ」

僕は指輪も用意してきている。都の指のサイズも把握している。小箱を開けると都は嬉しそうな顔もせず手を差し出した。都の手に僕は指輪をはめる。ダイヤモンドの散りばめられた、婚約指輪としては十分に豪華なものだ。

「式は?」

都が言う。

「え?」

「式はいつやる?」

都は意外に乗り気だった。

 

ちょっと拍子抜けしたが、都がそういう反応をすることは分かりきっていたことだ。僕が結婚に特別な感情を抱いてどうする。

「式なんて、やる必要あるのかな?」

どうだ、都。困れ! そして上目遣いで懇願しろ!

「そっか……」

そういうと都は飲み干したコーヒーカップをそっとテーブルに置いた。

「馬鹿野郎! わたしは一度しか結婚しないんだぞ!!」

右の頬がかっと熱くなったかと思うと、僕の意識は暗転した。

 

目が覚めると、知らない場所にいた。白い天井が見える。ここは病院だろうか……。

「あ、起きた?」

都が僕の顔を覗く。だんだんと頭がはっきりするに連れ、状況が飲み込めてきた。僕は都にぶん殴られ、意識を失ったようだ。

「ごめん、リミッターを解除してたの忘れてた」

ペロっと舌でも出しそうな笑顔で都はいう。ごめんじゃないよ、全く。いくら僕がひ弱とはいえ、拳で成人男性を昏倒させたんだぞ。

 

パタパタと足音がして、看護師が現れた。

「よかった。アガタさん、気がつかれたんですね」

「ええ、すみません。服まで着替えさせてくださったようで」

「それは奥さまが」

「あ、そうですか」

感謝しろよ? と、目で都が言う。そもそもおまえが僕を殴ったんだろ……!

「あの、もう僕は帰っても?」

「だめですよ! 頭を強く打ったんですよ。もう少し、精密検査させてください」

「でももうなんとも……」

「だめです。何かあったときに責任取れません」

看護師は頑なだ。そんな僕らのやり取りをよそに、都は窓の外を眺めている。南塚の駅のホームを見ながら、都は何を考えているのだろうか。

「じゃあ、いつぐらいに退院できますか?」

「何もないことが分かるまでです。とはいえ、そんなに時間はかかりませんよ。明後日ぐらい」

やれやれ。何日か仕事を休むことになりそうだ。連絡をしなければ。

「奥さまからも安静にするように言ってください」

「そうよ、あなた。あなたにもしもの事があったらわたしはどうすればいいの?」

本当に心配しているのだ、といった表情で都が僕を見る。その姿に何か感じるものがあったのか、看護師は少し態度を和らげ

「幸い、外傷はないし、さっき調べたときには脳波も安定していたので、大事にはいたらないと思いますよ」

と言った。じゃあ退院させろ、と僕が言おうとしたのを都が遮る。

「わたし、ほんとに心配して……。あなたにもしもの事があったらどうしようかと」

こいつ、さっきとおんなじこと言ってる……。そこでぼくは気づいた。都は看護師から奥さまと呼ばれたことでテンションが上がっているのだ。なんてやつだ、今は夫を心配する貞淑な妻というキャラクターを演じているのだ。いつでもどこでも楽屋コント的な振る舞いをする悪癖が都にはある。

リレー小説はじめます

せっかく共同でブログをしているのだから、みんなで何かしたいなぁと思いながら、午前中いっぱいかけて掘った穴を埋める作業をしていました。

 

そんなおり、恩赦の時間に読んでいた本に、小説を書くためのトレーニングとしてリレー小説をやってみるという内容が載っていました。「これだ!」ぼくは叫びました。「静かにしろ!」と、管理係の方がぼくを修正してくださったので、鼻血が出てて、翌日の朝食と恩赦の時間が無くなりました。

 

鼻血が出るのも厭わず、ぼくは管理係の方にコミュニティとの連絡を求めました。管理係の方々はとても熱心に働いていらっしゃるので、ぼくたちの申請が通るのは早くて次の週、通常は三週間後になるからです。ぼくの態度が悪かったので、管理係の方が再度修正してくださり、今度は一瞬息ができなくなりました。しかし、ありがたいことに申請は通りました。

 

さて、やだんこ!リレー小説の概要はこうです。

 

1.まず、各々が140字で出だしを書く。

2.次の日、割り振られた人の出だしに続くようにまた140字書く。

3.それを6日間繰り返し、ひとつの掌編小説になるようにする。

 

その本には、「出来るだけ、流れを損なわず、補強していくように書く」「時に意外な方向転換を行い、変化をつける」と書いてありましたが、自由にやるつもりです。

 

ぼくは生まれて初めてリレー小説を書きます。無限大さんに至っては、小説を書くこと自体が初めてだそうです。処女作にして、複数プレイとはさすが無限大さんです。ぼくたちの作品がどんなものになるのか、楽しみです。

 

あっ、管理係の方がイライラしているようなので、作業に戻ります。えっ、今度はさっき二階に上げた砂袋を地下に運ぶんですか?

 

(だっくる)