やだんこ!

共通点があったりなかったりする者同士で更新するWeb同人誌です

バーミヤンで火鍋頼みたい人生だった

みなさんこんばんは。

 

やりたかったし、すぐできるけど、やってないなぁってことありませんか?

 

ありますよね。

 

僕はここではそーいうことについて書いていきたいなあとおもっています。たたたです。たたにゃんでもたたさんでも、音速の貴公子でも好きに呼んでください。いろいろあってここに混ぜてもらいました。

 

今回取り上げるのは、バーミヤンの火鍋です。バーミヤンというのは、すかいらーくグループが経営する中華料理屋さんで、早くてきれいで安・・・・・・くてまあまあおいしい中華を提供してくれるところですね。

 

ドリンクバーも完備していて、みなさん少なからず利用されたことがあると思います。あの何故か桃のデザインのにくいあいつです。

 

そのバーミヤンに、1980円出すとたべられる「火鍋」というセットがあるのをご存じでしょうか。中国語では、huǒguō=フゥオグゥオみたいに発音し、陰陽の太極に見立てられるカーブのついた仕切りの鍋が特注で使われているのですが、なぜかバーミヤンでは「しゃぶしゃぶ食べ放題」という身もふたもない名前がつけられています。

 

10種類以上の具材が食べ放題で、2時間でドリンク飲み放題がついて、最上級のプレミアムなコースなら、半らーめん、半チャーハン、小総菜などまで食べ放題。もはや「しゃぶしゃぶ食べ放題とは・・・・・・」みたいな気持ちになりますが、わずか3197円(税別)という破格of破格のウルトラメニューです。

 

しかも一枚は沖縄産豚肉まで食べられるそうです。

 

ですが、このコース、ほとんど頼んでいる人をみたことがありません。

 

かつて、ガストであったお店がある日突然バーミヤンに変わった日、店の看板にはでかでかと「火鍋!」とありました。それはいまやただの「P」に変わってしまいました。

 

誰も注文しないからです。

 

 バーミヤンで「食べ放題」を注文するというハードルの高さは尋常ではなく、しかも3000円以上の金額をバーミヤンで払うことは別のハードルもあります。なぜならバーミヤンでは500円払えば小皿二品をたべられるのです。ちょっと呑むならそれで十分です。

 

 しかも二人以上でないと頼めないのです。バーミヤンで食べ放題飲み放題が許される社会がこの世にあるのでしょうか。あるのかもしれませんが、僕はしりません。残念です。

 

 さらにそれに「飲み放題」まで付けたら、近くの家族連れからは「え? バーミヤンで? 食べ放題で飲み放題なの?」という目線を向けられる、そんな恐怖心すら感じます。

 

しかもいい年こいたオッサンが、二人で、バーミヤンで、鍋を食べていたら、通報されるかもしれません。物騒な世の中ですから。

 

 ずっと昔、高校生二人がバーミヤンで火鍋をたべているのをみました。がつがつとたべる男子二人は、いかにも「男子」という感じでいさましく、それと黒豆茶をごぶごぶ呑みながら「まじで神」とか「バーミヤンの世界を感じた」「隣のクラスの緑めっちゃかわいい。俺が大人だったら抱いてた」などと言っているのです。ちょっと、チープめながら丁寧に切られた薄い豚肉をしきつめたトレーや鶏肉が無造作にのった皿が次々運ばれてきて、ああ、なんていうことだろう。そうか、これが僕がたべたかった火鍋なんだ、と思いました。友情まで煮込みながら、親しさを共有しあう美的な空間です。

 

火鍋を頼む友達がいつかできるだろう。そんな風におもって、何年もたってしまいました。いつかバーミヤンで火鍋を、親しい友人と食べる日がくることを願っているだけで、何年もたってしまっていたのです。しまって、いたのです。バーミヤンラーメンと三個餃子を頼んでいるだけで、何年も。

わたしの小説の書き方

文學界7月号に掲載された村上春樹の新作短編の内容を読む前にタイトルから予想する、というのをやろうと思っていたのですが、すっかり忘れていて普通に読んじゃいました。面白かったです。きのこです。

 


この間、小説ってどんなふうに書いてるの? と人に聞かれ、うまく答えられなかったのでちょっとまとめてみました。

あくまで現在のわたしのパターンなのと、わたしはアマチュア小説家なので職業として書いてる人とは全然違い、あんまり参考にならないかもしれません。でも書いてみますね。

 


<わたしの小説の書き方1>


マチュア小説書きたちの間では、月産枚数どのくらいか(一ヶ月あたり原稿用紙換算で何枚くらい書いてるかってことです)という話が交わされることが多い気がします。


わたしは最近は1ヶ月に1本原稿用紙100枚くらいのもの書くことを目安にしています。

そこに賞の締め切りによっては短いものが加わります。たとえば10枚とか20枚とか。

150枚くらい、ないしそれ以上の感じになると1.3~1.5ヶ月くらいかける時もあります。でもばーっと書いて1ヶ月で160枚というパターンもなきにしもあらずです。


月産でいうと100枚切ってると思います。毎月そんなにうまく書けるわけではないしさぼるときもあるし、逆にめっちゃ書くときもあるので、はっきり言いにくいところです。


1ヶ月のうち、1週間から2週間はアイディア出しの期間です。うおーーーと言いながら(本当に言います)ノートに思いついたことをがりがり書いていきます。


もういいか、ってくらいまでノートにメモをし終わったらポメラで書き始めます。


ポメラで小説を書くときのペースは、平均するとたぶん1日に4000字くらいだと思いますが、書けない時はほんとに500字くらいで止める日もありますし、書けるぞって時は8000とか10000字くらい書きます。


書きあがったらパソコンに移して、印刷します。自分で校正や推敲をして、そのあと夫に見てもらい、赤字を反映させて、反映がうまくできてるかを確認して終了です。


たぶん最後の校正パートは賞に投稿している人たちだともっと軽く済ませている(たとえば自分での校正だけとか)と思います。

こないだ聞いたところでは、執筆→自分で推敲と校正→完成、という人がいました。

わたしは、執筆→自分で推敲と校正→夫が校正→校正を反映させたものにミスがないか確認→完成 なので結構細かくやってる方かもしれません。

なぜチェックを細かくしているかというとわたしは可愛くいうとおっちょこちょい、可愛いでごまかさずにいうとADHDなので、わりあい誤字脱字が多いからです。

 

 

<わたしの小説の書き方2>


ネタ出しについてもうちょい詳しく書きます。


ネタ出しの前段階にネタ拾いというものがあるような気がしています。


そもそものネタをどこから拾ってくるかといったら日常のぜんぶなので(これもたぶん人によって違うところだと思います)、特にネタ帳とかは作っていません。たまーにiPhoneのメモに書くことがあるくらいです。

ネタ集めの段階では頭の中で整理している感じ。


ただわたしはチャットノベルも書くので、そっちは結構明確にネタ拾いをします。

ホラーものが多いからです。ホラーはネタ先行なので、ネタ拾いに怖い話を読んだり投稿先のサイトの作品を読んだりしています。どんなシチュエーションが怖いのかとか流行り物をチェックする感じです。あとあんまり被らないようにするという意味もあります。


ネタ出しは前述のとおり、1週間から2週間机に向かって唸ったり笑ったりしながらやります。

楽しいです。


飽きないようにネタ出しのやり方を都度変えています。

たとえば一年半くらい前に書いた小説は、新橋のエクセルシオールでいかしてる服装の人を見つけたので、布地の模様モデルという話になりました。

あたらしいドレッシング

http://yokaikinoko.blog.fc2.com/blog-entry-63.html


寿司が食べたかったので寿司の話を書いたりとかっていうのもあります(これはウェブにはあげてない)。不純な理由です。


やだんこ!メンバーとラインをしていて、浴槽にトマトが落ちていたら怖いよね、という話になったことから書いた小説もあります。

セミコロンが(あった)

http://yokaikinoko.blog.fc2.com/blog-entry-116.html


人間の暗黒面を描きたい、とか、人の憎悪が膨らむ様子を描きたい、という人の心の動き系から入るパターンはあまりないです。

ものとか気になる事柄をきっかけに書いていることがほとんどです(これも人によって全然違うところだと思います)。

 

 

<小説を書きたいのに書けなくて悩んでいる人へ>


お前は何様だよコーナーです。友人から最近よく相談されるので設けてみました。


書ける時と書けない時があると思います。書ける時に書ければいいので、焦らないで頑張ってください。いや、頑張らなくていいです。リラックスです。


途中で投げ出しちゃう人は、最後まで書ききる体験を積んだらいいと思います。下手でもくそでもいいのでとにかく書ききると、達成感が出てきたり、意外と面白い部分があって驚いたりできるような気がします。


わたしは小さい頃からお話とか小説の類を書いていましたし、大学でも創作を専攻していましたが、100枚以上の作品を書けるようになったのは27歳くらいからでした。

それまで10枚とか30枚くらいまでが限界だったのですが、なんか急にはっと書けるようになりました。そういうものかもしれません。


偉そうでごめんね。一緒にゆっくり頑張りましょう。

 

 

(きのこ)

 

 

 

 

おっさんずラブ・ロス

梅雨ですね、紬です。

くせっ毛がいつもよりぼわっとなる季節です。

 

さて、少し前までネットを騒がせていた深夜ドラマ『おっさんずラブ』、

わたしもご多分に漏れずハマっていました。

 

どんなドラマかというと男三人プラスαの純愛を描いた物語です。

最初は「ネタかな?」と思っていたのですが、

いざ見始めると、泣くは笑うわ発狂するわで大変でした。

 

そんな『おっさんずラブ』について今回は勇気をだして書いてみようと思います。

 

www.nikkansports.com

Twitterトレンドで世界一……、腐女子(だけではないとおもうけど)のパワーを改めて知る機会ともなりました。

 

 

わたしがどれくらいハマっていたかというと、

おっさんずラブ』を中心にスケジュールを組むくらい。

飲み会があっても「リアルタイムで見たいから……」と帰る感じです。

こういうのは『おそ松さん』以来。

 

とはいえ私は自信をもって腐女子といえるほどの人間ではありません。

もちろん嫌いではないが、

BLといえばよしながふみとか中村明日美子くらいしか知らない。

どちらかというと志村貴子の描く百合に興味がある。

 

そんな私がなんでここまでハマったのか?

 

俳優陣が豪華だから。(吉田鋼太郎さんて!)

内田理央が好きだから。(写真集二冊もってます)

製作陣のやる気がガチだから。(ドラマはもちろん、インスタの活用っぷりがすごかった)

などなどたくさんあるんですが、

 

なにより

「人を好きになるのに、性別も年齢も関係ない」ということを

本気で描ききったドラマだったから、ではないでしょうか。

 

ドラマ放映中、

異性愛とか同性愛とか関係なくこれはないわ〜/これはやばいわ、きゅんとくるわ〜」

みたいなことを頻繁につぶやいていることにふと気づきました。

 

とくにLGBTの風潮にのっかってるとか、

マイノリティならではの

あれこれを訴えかけてくるような演出はありません。

異性でも同性でもどっちでもよくない? 

みたいなことを、役者の演技と物語構成で自然と思わせてくるといいましょうか。

 

とくに林遣都演じる牧くん(ゲイ)は、

自己肯定感の低さから、

片思いしていた田中圭演じる春田(ノンケ)と付き合えることになっても

なかなか自信を持てない。

「俺なんか欠陥ばっかり」とかさらっと言っちゃう。

イケメンエリートなのに。

 

なぜ彼がこんなに自己肯定感が低いのか、

その背景はほぼ描かれないのですが、

そんな彼が健気に春田を想い、支える姿に

涙を流さずにはいられませんでした。

 

気づいたら異性愛とか同性愛とかの壁を越えて

「はやく、はやく牧くんを幸せにしてあげて!!」

と、おそらく私含め大半の視聴者が思っていたように感じます。

 

その他のキャラクターもとにかくすばらしく、

吉田鋼太郎さん始め役者の体当たりの演技に「はわー!!」となること数知れず。

「おまえはいったいなんなんだよ、はるたん!!」

とクッションを殴る日があれば

「部長、それはセクハラとパワハラの合わせ技……完全にアウトっす」

と妙にドライにつっこんでしまったり。

興奮しすぎて土曜の夜に眠れなくなったものです。

※はるたん…主人公春田の愛称

 

 

キャラクターのだれもが、同性愛を変な方向でさわぎたてることがない。

思い返せば「裏切られた」とかいう発言はあっても

「きもい」とかそういう容赦ないセリフはほぼほぼなかったような気がします。

「みんな自分の気持ちに一生懸命で、嫌な人がいない」

というのもこのドラマの特徴でした。

 

一種のファンタジーといえばそれまでですが、

ファンタジーがここまで人の心を揺さぶってくる。

 

そんな『おっさんずラブ』、

紬的、人生史上最高むねきゅんなドラマNo.1に輝いています。

 

続編をのぞみます!

リレー小説の話・にくにくしているわたくし

最近めっきり暑くなりましたね。こんな日はおうちをダンスフロアに改造して踊りたーい! クラブでやってろ! 改築費がかさむから! きのこです。


リレー小説、二作品が完結しました。いかがでしょうか?

わたしはだっくる作品の最後を担当したのですが、ひとりで4800字書いて話をまとめるという荒業に出ました。途中で、あっこれ調子乗って書きすぎてるなと思ったのですが(ひとり一更新あたり140字が目安でした)、人間、走り出したら止まらないものですね。((꜆꜄  ˙-˙ )꜆꜄꜆シュッシュッシュッシュッシュッシュッ


残り二作品も動いています。いつかは完結すると思うので気長に待ってくださいますと幸いです。


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こんど結婚式があるので服を見繕っていたのですが、わたしは体重の増減が非常に激しいので、昔着ていたジャケットが着られなくなっていました。


ここ2年間で、35キロ太って、45キロ痩せて、50キロ太って、25キロ痩せました。

もうわたしも計算が追いつかないのですが、つまり、いまは結構太っている状態ということです。


ぽっちゃりというか肉団子というか肉まんというか球体というか、とにかくそういう感じにあります。

この間知り合いに会ったら打率よさそうだねと言われました。安打というよりホームランタイプのバッターで今後もやって行きます。


結婚式は来月なので、頑張って引き締めようと思います。と言いながらいまあまーいカフェラテを飲んでいます。おいしー(打率アップ)。

 


(きのこ)

リレー小説・紬 (完結)

滝の神様になって一年が経った。特にすることはない。早朝も真夜中も滝のそばにいるだけだ。たまに人や魚の形をかりて泳いだりもする。時間帯を間違えると、たまたま訪れた人間にぎょっとされることもある。だいたいいつも美少女の姿で、しかも裸で泳いでいるからだ。べつにそういう趣味ではない。裸の美少女の姿でいるのが、一番抵抗がないからだ。それには神様になる前の記憶が関係しているのかもしれないが、滝の神様はもう、神様になる前のことを思い出せなくなりつつある。

とは言え、美少女姿の滝の神様を見た者の中から、滝の神様に惚れてしまう男が出て来るのも無理なかった。

人生に疲れ果てて山に入ったはずの男は、じっと死を待つことも出来ず、あてもなく彷徨って偶然、滝の神様のいるこの場所に着いたのだ。

最初、遠くから見ていただけだったのが、いつしかこっそりと近づいていった。男に邪な気持ちはなかった。ただ、より近くで泳ぐ美少女の神性を感じたかった。それは今までの男の人生にはなかった感情だった。

滝の神様は自分の方へ近寄ってくる男のことを認識していた。男はいつからか物陰に隠れることも忘れて滝の神様に近づいていたのだ。

男がはっと気付いた時には水の中へ入っており、美少女が目の前にいた。美少女の肌は輝いているかのように白くうつくしかった。その輝きは人間のものではないように思われた。

思わず男が手を伸ばすと、美少女は消えてしまった。

まるで水に溶けていくような消え方だった。男はぼうぜんとしながらも心のどこかで納得していた。とても自分と同じ人とは思えなかったからだ。もしかしたら水の妖精なのかもしれない、なんてことも考えた。

それならば無理に追いかけてもしょうがない。おそらく向こうが気を許してくれない限り姿は見せてくれないだろう。

明日も来てみようか。また会えるだろうか。

「明日か……」

男は自嘲した。ついさっきまで、死のうと思っていたのに。そして、自分が以前ほど疲れていないことに気づいた。なんとなく、元の暮らしに戻ってやり直せる気がした。男は滝に向かって手を合わせると、山を下っていった。

 

こんなふうに滝の神様は存在するだけで、その神性を発揮して、時たま人を救っていた。ときに人にとどめを刺すこともあった。コミュニケーションを取らないことが滝の神様が自らに課したルールだったが、それによって拒絶されたと感じ、命を断つものもいたのだ。

だけどそれはしょうがない。神になってからわかったが、命は巡っていくものだから、死は悪いことでもなんでもないように思えた。むしろその個体にとって自ら命を断ちたくなるほど生きづらいならば、さっさと地球に返還されればいいのだ。そう、かつての自分のように。

まさか神になるとは思っていなかった。

とにかく毎日生きづらくて、そもそも生まれつき人生そのものに価値をあまり見いだせず、会社を辞め、友人とも疎遠になり、こないだやってきたあの男のように滝をぼおっと眺める日々が続いていた。かといって自ら死ぬような元気もなく、雨の降った翌日に滝を訪れ、うっかり足を滑らせただけだった。誰かに背中を押されたような気がしないでもないが、まあそれはいい。

 

毎日とても心穏やかに過ごせている。自然というものは心をよせて過ごしていれば変化に富んでいて、飽きることがない。その変化に驚くことはあっても、人間社会のように心が疲弊することがない。幸運な死だったように思う。

いつまでこの日々が続くのか、倦んでしまわないか、孤独にやられてしまわないか……かすかな不安が心によぎることがないわけではない。けれどそれは一瞬で滝に溶けていく。そのあとは、流れ落ちていく水の姿を見るだけで強烈な幸福感がやってくる。かぞえきれないほどの鳥の鳴き声や、四季に伴う植物のうつりかわり、森に住む動物たちの姿、途方もなくゆっくりと変化する苔や岩の様子に、刻一刻とかわる空。眺めるものは山のようにある。

このままでいいのだ。どうしようもなく飽きたら誰かの背中を押せばいい。なぜかはわからないが、そんな気がする。

(完)

リレー小説・だっくる(完結)

ぼくの嫁は「りるれの三姉妹」と呼ばれ、地元の上谷では知らないものがいないほどの有名人だった。長女りみ、次女るみ、そして三女がぼくの嫁、れみ。


三人は、円満な家庭環境の元、すくすくと育った。外で遊ぶことが好きな二人の姉に比べ、れみは家で図鑑を眺めることが好きなおとなしい性格だった。

作りのしっかりした、硬い紙の図鑑を触っているだけでれみの心は落ち着いた。
昆虫や植物に乗り物……家にない図鑑は学校の図書室で借りて帰る。ランドセルはいつもの2倍くらい重くなったが苦にはならなかった。

ある日、母親についていった本屋で『妖怪図鑑』なるものを見かけ、れみは心を奪われた。

妖怪図鑑に出てくる言葉はれみの語彙にはないものばかりだった。
ひょうすべ、ぬらりひょん、いったんもめん……不思議なひらがなの並びにれみは惹かれていった。

「あれ」

図鑑を繰っていたれみは思わず声をあげた。開いたページにはざしきわらしのイラストが描かれている。

「お姉ちゃんにそっくりだ」


その頃かられみは、奇妙なことに気づき始めた。


三姉妹の家庭は恵まれていた。この時世にさして需要があると思われない桶屋にしては、異様なほど。商売っ気のない呑気な父が乗り回しているのは大層なスポーツカーだった。


最も奇妙なのは、どれだけ探しても、るみだけ、赤ん坊の頃の写真が見つからないことだった。


「お姉ちゃんはざしきわらしなのかもしれない」

ざしきわらしは憑いた家は栄え、しかしその一方で、居なくなってしまうとその家は没落するとも図鑑には書かれていた。幼さゆえの無邪気さで、ほとんどるみがざしきわらしだと信じ込んだれみは、姉から片時も離れないことを決めたそうだ。

「それを切っ掛けにわたしは外で遊ぶようになって、いつのまにかテニスで県大会に出ていたのよ」

昔を懐かしむような口調とは裏腹に、いたずらな表情を浮かべながら、れみはぼくに教えてくれたのだった。

「この大嘘つきめ!」


ぼくがいつものノリでそう突っ込むと、れみはぽかんとしたあとににっこりと笑った。


「なにが嘘だとおもったの?」


「全部。まずテニスで県大会にでたなんて聞いたことないし」


「座敷わらしは?」


「大嘘だろ」

 

思わず鼻で笑ってしまう。座敷わらしはもちろん、妖怪なんて昔の人が考えたこじつけだ。

 

「ふーん、信じてくれないんだ」


いたずらっぽい表情を浮かべながらも、れみはほんの少しさみしそうな顔をした。そのとき僕はそれを、ちょっとしたつくり話にのってくれなかったことへの表情だと受け止めた。それ以上の深い意味なんてあるわけがないと思っていた。
でもれみはその翌日から姿を消してしまった。


れみは一週間経っても帰ってこなかった。何度も電話をかけたが、携帯の電源が入っていないという返事だけが帰ってきた。

 

誰かにれみの失踪を伝えなくてはいけないと思ったが、れみと僕の共通の友人はいなかったし、彼女の実家の連絡先を僕は控えていなかった。

 

警察に連絡するべきなのかもしれない、と考えはじめた頃、一本の電話がかかってきた。
りるれの三姉妹の長女、りみだった。

 

「もしもし」
「りみです」
「あ、お世話になっております」
「特に、お世話してません」
「すみません」
僕は謝った。慣用句的表現を使っただけでなぜ謝らなくてはならないのだろうか。

 

「れみがいなくなったと思うのですが」
りみがはっきりと言うので僕は驚いた。

 

「え」
「え、とは?」
「いや、なぜご存知なのかと」
「わかりますよ」
りみは呆れたように言う。
「上谷の家に悪いことが続いていますから」

「どういうことですか」
「悪いことが続いているのは、れみがいなくなったからです」

「え?」
「れみは何も言っていないのですか」
「何もって、何を?」

 

「れみは座敷わらしなのです」
りみははっきりと言った。

 

上谷は僕の家から電車で二時間ほどのところにある街だ。
電車に乗っていると、僕の住む街のビルでごちゃごちゃした様子から、だんだん建物が低くなっていって、まばらになり、あっという間にひらけたところに出る。畑と田んぼが延々と広がっているこの上谷でりるれの三姉妹は育った。

 

れみは大学進学を機に上谷を出たが、りみは実家に残り、るみは若くして他界してしまったと聞いている。

 

駅に迎えにきたのはりみだった。

 

「おはようございます」
僕の挨拶に、りみは、
「こんにちは」
と返した。

 

「すみません、わざわざ迎えに来ていただいて」
「車で行かないと、かなり距離がありますから」
「ありがとうございます」
「いえ」
りみは長い髪をなびかせて、さっさと歩いていく。

 

駐車スペースには真っ赤なスポーツカーが停まっていた。りみがそのスポーツカーに乗り込んだので、僕は助手席のドアを開けた。
「だめ」りみは言う。「後ろに乗って」
「はい」
僕はりみの言う通りにした。

 

「どうして知らなかったんですか?」
サングラスをかけて運転を始めるなり、りみは言った。
「座敷わらしのことですか」
「そうです」
「聞いていませんでした」
「そんなことってありますか? 夫婦でしょう?」
「いや、まあ……」
りみの言葉に僕はつい語尾を濁してしまう。

 

僕とれみはわりあいに仲のいい夫婦であるつもりだった。しかし二人の間には共有されていない事項がいくつもあったのだろう。
少なくともれみは自分が座敷わらしであることを僕に隠していた。

 

「れみは」僕は言う。「るみさんが座敷わらしだと話していました」

「それも本当」
りみはギアチェンジをしながら言う。今時珍しいマニュアル車だ。

 

「るみは座敷わらしで、上谷の家を栄えさせる仕事を終えて、いなくなった」
「いなくなった?」
「ものごとを円満に解決させていなくなったから、今回のれみの場合とは違うと思います」

「じゃあ、れみは」
「わかりません。もともと情緒不安定気味な子ではあるけれど、座敷わらしとしてのいろいろを投げ出したりするタイプではないはず」
りみは続けて言う。
「どこへ行ったのかさっぱり見当がつかない」

 

ひたすらに田んぼと畑の広がる道をしばらく走っていくと、ちょっとした住宅地に出て、大きな病院が見えてきた。りみはウィンカーを出して病院の駐車場へ入っていく。

 

「先に父さんの顔を見てから行きましょう」りみは言う。「家で転んで具合を悪くしたの」
「お怪我はないんですか」
「見た目ではわからないから今日検査をあれこれしているはず。なにしろ歳だから、骨の数本折れているかもしれない」

 

黙っている僕にりみは駐車券を取りながら言う。
「れみがいなくなったことでこういう不幸がやってきているんです。あなたもそうでしょう?」
「いや、特には」
「給料が急に下がったとか」
「べつに」
「怪我をしたとか」
「してないです」
「コンビニでお弁当を買ったら箸が入っていなかったとか」
「そんな小さいことですか。それもないです」
「ないの? おかしい……一番にあなたのところに被害が出るはずなのに」

 

りみは考え込みながら車を停め、すっと車から降りて病院の方へすたすた歩いて行ってしまった。僕は、首を傾げ考え事をしているりみを走って追いかけた。


エレベーターホールでやっと追いつき、閉まりかけていたエレベーターのドアをこじ開けて、僕はりみに病室がどこにあるかを聞き、階数ボタンを押した。りみはまだ考え込んでいる。

 

エレベーターが開いたとき、りみは「あ」と声を上げた。
「どうしました?」
僕の質問には答えずりみはすたすたと歩いていく。僕はまた小走りでりみを追いかけた。

 

義父の病室は廊下の一番奥にある個室だった。
「お、お久しぶり」
義父が手をあげる。薄い青の浴衣のような病院着を着ている以外は顔色も良く、元気そうに見えた。

「お久しぶりです」
「いや、ちょっと家の中で転んでしまってね」
「検査はどうだった?」
りみが聞く。
「どこも異常なし。打撲が少しあるくらいだった。念のため今日は泊まって、明日退院できるそうだ」
「よかった」
「死んだかと思ったよ、ひどく転んだから」
義父は笑う。りみが真剣な顔で頷いているところを見るとよっぽど危険な転び方をしたようだった。

 

「そうそう、れみがうちに来ているみたいだ」
義父の言葉に僕とりみは驚いた。
「会ってあげてくれるかな?」
僕の目をまっすぐ見ながら義父は言う。僕は、はい、と返事をしようと思うのだがなかなか言葉に出せず、もたもたしているうちに待ちきれない様子のりみが病室を出たので、僕は義父に頭を下げてりみの跡を追った。

 

りみは車に乗るとすぐにエンジンをかけた。僕はなんとか出発する前に車に乗り込むことができた。


住宅地を少し離れると見たことのある景色になってくる。病院からりるれの三姉妹の家まではそれほど遠くないようだった。

 

「そんなに」りみは苦々しげに言う。「そんなにれみが嫌い?」
「嫌いじゃないです」
僕は、嫌いじゃないという言葉は不適切だなと思い言い直した。
「好きです」

 

「でもれみの話を信じなかったんでしょ?」
「いや、れみは」
「るみが座敷わらしだという話だけをしたのよね、多分」
「そうです」僕は言う。「その話は僕は冗談だと思ったし、れみも自分が座敷わらしだとは言っていなかった」

 

「言えると思いますか?」
りみは敵を見るような目で僕の方を向く。
「あなた、自分が妖怪だったとして、そのことを人に言えるんですか?」
「妻になら、言うと思います」
「あなた、あなたって人は……。妖怪だったことがないからわからないのか、それとも人の気持ちがわからないのか、まったくもう」
呆れたようにりみは言う。

 

「座敷わらしと結婚しておいて、座敷わらしだって気がつかないなんて信じられません。しかもるみの話をヒントとして出していたのに」

 

「気がつきませんよ普通」
「普通って何?」
りみは言って、続ける。
「私たちの普通はれみが座敷わらしであること。座敷わらしの存在を否定するなんて、普通、ありえないと思います」
僕は黙るしかなかった。

 

りるれの三姉妹の家は大きな屋敷だ。いつ訪れても驚かされる。昔ながらの縁側や土間のある、漫画にもなかなか出てこないような古風な作りで、よく手入れのされている家である。

 

玄関前にれみが立っていた。

 

りみは車を止めるとれみの元へ駆け寄り、れみの頬を引っ叩いた。そして強く抱きしめた。

 

僕は車から降りて立ち尽くしていた。

 

れみはかなり痩せたようだった。もともとややぽっちゃりとした体型だったれみの頬がすこしこけてシャープなラインになっているのを見て、僕は泣きそうになった。

 

りみとれみはあれこれ話をして家の中に入っていった。僕は戸が閉められてもしばらく動くことができなかった。

 

ようやく家の中に入ると、りみが台所から麦茶を運んでくるところと出くわした。りみは僕を睨みつけて居間の戸を開けた。僕も居間に入った。れみが姉から麦茶を受け取るところだった。


僕はれみの向かいに座った。僕の分の麦茶は出てこなかった。

「れみ」
僕はれみに呼びかける。れみはこちらを向いて照れくさそうに笑った。
「なに?」
「どこに行ってたの」
僕が聞くと、
「あなたたちの家の天井裏に隠れていたんだって」
と、りみが答えた。

 

「天井裏に?」
れみは頷く。鎖骨がはっきりと浮き出て見える。ずいぶん憔悴している様子であることに僕は責任を感じた。
「この大嘘つきめ! だって?」
りみは口の片方だけをあげて嫌な笑い方をする。
「ひどすぎる」
「いや、あれは冗談で」
僕が弁解しようとするとれみが、
「そう、私たちの間で流行っている冗談だったの」
と言った。
「でも悲しくなったの」
とれみは続けた。

 

「ごめん」
僕は言う。れみは頷く。
「そりゃそんなに近くにいるんだから不幸ごとも起きるわけないわよね」りみは言う。「父さんが転んだのは、たぶん、れみの悲しみの気に当てられたんだと思う」
「ごめんなさい」
「れみが謝ることじゃない」
りみはれみの頭を撫でる。僕はそれを何もできずに見ている。

 

「離婚、する?」
僕は恐る恐る言った。
「え?」
れみがぽかんと口を開けてこっちを見る。
「いや、なんか、申し訳なくて」

 

「この馬鹿!」
りみが座卓の上に飛び乗って、僕をばしばしと叩き始めた。
「お姉ちゃん、やめて」
「全然わかってない! れみのこと理解する気がないのをそうやってごまかして! 馬鹿! 馬鹿やろう! あほ! まぬけ! うんこ! うんこたれ!」
「お姉ちゃん、うんこはやめて」
「うんこ! うんこ!」
「お姉ちゃん、あんまり汚い言葉知らないからって、最上級の罵りがうんこなのおかしいよ、はは、ははは」
れみが笑いだしたのでりみは僕に暴力を振るうのをやめた。

 

れみは、はー面白くてお腹痛い、と言いながら笑ってうつむいた。僕は、動こうとしたりみを制して、座卓の上に飛び乗り、れみの肩を掴む。
れみは笑いながら泣いていた。

 

「れみ」僕は言う。「ごめん」
「うん」
「本当にごめん」
「うん、うん」
「座敷わらしでもいいから」
と言ってから、僕は言い直す。
「座敷わらしのれみがいいから」

 

れみはぽろぽろ涙をこぼしながら僕にしがみついてくる。僕はれみを抱きとめた。
僕もつられて泣けてきてしまって、二人でわんわん泣いた。

 

どれだけ泣いたのかわからない。やっと涙が落ち着いてきた頃に、りみが居間に入ってきた。僕とれみは泣いていたから、りみがいつ部屋から出ていったのか全く気がつかなかった。
「これ」
りみは分厚い封筒を差し出す。れみが受け取って、中身も見ずに、
「こんな大金もらえないよ」
と言った。
「結婚式やってないでしょ。花嫁姿を私たちに見せてほしいの」
「お姉ちゃん」

 

「あ、このお金は私一人からじゃなくて、お父さんとお母さんとるみと私からだからね」
「亡くなったお母さんから?」
僕は聞き返した。
「ちょっと、お母さんを勝手に殺さないでよ」
れみは笑った。
僕はてっきり、三姉妹の母親は姿を見せたことがなく、みな母親について話すときは言葉を濁していたから、母親は亡くなったものだとばかり思っていた。


「お母様は、どちらに」
僕は言う。りみは笑って上を指差した。僕は天井を見る。途端にどたばたと天井裏から足音が聞こえてきた。
「え? 天井裏に?」
「れみは、お母さんの真似をしたのよね」
りみにそう言われて、れみは恥ずかしそうに笑った。


僕はれみをずっと守っていこうと思った。

 

(完)

 

わたしたちなりのリレー小説の終わらせ方

1週間でリレー小説終わるの無理でした! 続けるのは結構余裕でしたが、〆るのがむずい!

 

つーわけで、急遽ルールを変更しました。

 

担当の日替わり制をやめます。担当者は今週中にそれぞれの続きを書き、物語を完結させます。

今週中であれば、いつ終わらせるかは担当者次第です。今日の更新で終わるかもしれないし、日曜日に終わるかもしれない。

で、それだと続くかどうか分からなくて読者に不親切なので、最後には(完)とつけます。

 

以上です。せっかくいっぱいの人に見てもらったので、頑張ります!頑張るだけなら誰でもできますよ?うるせえ!よろ!